酒におののくアメリカ。

 一観客として、「欲望のバージニア」へ。禁酒法下のムーンシャイナーと連邦取締局との死闘。邦題は内容をよく表しているが、原題「lawless」も、鉈で割ったような非情さを端的に表し捨てがたい。何より本作が、流刑開拓地の無法を生きる三兄弟の壮絶な殺し合いを描いた、「プロポジション」のジョン・ヒルコート監督の新作なのだ。さらに前作のマッカーシー原作と違い、その名からはエルロイ作品の常連を想起させられる密造酒業者、ボンデュラント三兄弟が主役である。つまり舞台は違えど、血縁と暴力の因果が意識的に対を成しているのだ。それは今回もニック・ケイヴによるシナリオなのも大きく、「ジェシー・ジェームズの暗殺」のように、シナリオ以外でも見て取れるケイヴ個人のアウトローへの思い入れもたっぷりだ。しかも歴史的には無意味でしかない禁酒法下の業者と官憲の抗争だけに、暴力描写も容赦がない。とりわけヒルコート作品常連のガイ・ピアースは、「ドーベルマン」の極悪刑事“クリスチーニ”を想起させる、手段無視の極悪捜査官に扮し、リーダー格の次男トム・ハーディも、首切りやチン切り、ブラスナックルで応戦。その上、大物ギャング役でゲイリー・オールドマンが“ドレクセル”ばりにトミーガンを乱射し場をさらう。かの「罪深き誘惑のマンボ」でも有名な、熱したコールタールと毟った鶏の羽根で晒し者にするKKK式リンチもあり、当局や禁酒法支持者と彼らが同根で、その助力で取締りが行われていたのもよく分かる。またジェシカ・チャスティンやミア・ワシコウスカといった女優陣も抜かりなく、対するハーディーの女への不器用さも「裏切りのサーカス」に続き、彼の現実のセクシャリティを想起させ共感できる。でも彼のナイーブさにおいて、外見と裏腹な無欲さを、「男らしい」と表現するのは憚られるにしても「ワケあり女に接する者」として鑑なのは間違いない。その脇でまたも鈍く光るデイン・デハーンも含め、高濃度のアンサンブルが堪能できるのだ。


 一観客として、「ハングオーバー!!! 最後の反省会」へ。「飲む・打つ・買う」が24時間可能なヴェガスは、やはりアメリカ人にとっても異常な魔都だ。ましてこのシリーズの登場人物は既に、一度その魔性に飲み込まれてるわけで、どんな必然性があっても、ヴェガスへの接近は警戒するに決まってるのだ。それが今回のミッションクリアに向けた大きな障壁として作用しており、前作のように律儀にマイク・タイソンが関係してこない点以外は、トッド・フィリップスは予想外に評価された実績の上書きに向け、成功のルーチンが含まれた自作の源泉を、これ以上ないほどにほじくり返し俎上に載せて見せる。それは大掛かりな前二作に対する復習でもあり、自身と観客に向けた厳密な腑分けにもなっているのだが、この敢行によって今回の完結編は構成され、その試みは成功していると言っていいだろう。一作目で飛び道具でしかなかったチャウを、シリーズ通してひたすら転がし、立ちのいいキャラとして成長させたキャスト達の功績も大きい。特に、ただの気違いなのに嫌味がないという、従来のコメディの枠を超えたザック・ガリフィアナキスの人物造形は、丁寧に全作品に点在していた小さな“振り”を広げ、ネタに昇華させており、ブラッドリー・クーパーも、その男気溢れる行動によって、さらにダメ人間からの好感度を上昇させたのは間違いない。今回彼らは、ずっと酒を飲まない(飲めない)危機に追われまくるが、その意味は最後に待ち受けるはずだった従来のスライドショーがない代わり、シリーズ自体が巨大なループを描いていたことに気づかされるのだった。シリーズに君臨し、誰よりも偉大だったヘザー・グラハムの崇高な美しさとともに。


 一観客として、「華麗なるギャツビー」へ。いつだって約束を守れない女のせいで全ての悲劇は起きる。礼節を教えられても、残り時間を気にし出すと信義などどうでもよくなる女が、時代のせいか圧倒的に多く、その証がデイジーの娘に対する育児論に露骨に見て取れる。「アンタッチャブル」から「欲望のバージニア」に至るまで、禁酒法下でバカ同士が殺し合ったのに、都市部の富裕層には無関係という、悪法の無常についての記録として重要なのは言うまでもない。さらに、「アンタッチャブル」の裏主人公「暗黒街の顔役(〜『スカーフェイス』)」と並ぶアメリカンドリームの寓話として、アールデコの美術と相まって、もう二度とない異常な時代の美化され続ける記録であり、「スカーフェイス」同様、更新され続けるべき雛形なのだ。よって、ある部分においては、高度成長やバブルなどという、まがい物しか知らない日本人には絶対に再現不能だし、底の部分では理解を拒むものでもある。そして今回、物語に新しい発見も解釈もない。だがその分、視覚的な高密度の情報量に没入できるのだった。またスピーク・イージーやギャングとの繋がりなど、原作本来の毒々しさに誠実な物語追求により、もっとどぎつくてもいいほどだ。コッポラが改変したような、ベトナム戦争への含意など不要で、ただバカ騒ぎして空しく悲しい、それがこの絢爛な物語の肝なのだから。とはいえ、原作ではあまり重視されてない、ゴルファーの高身長女や黒人女を美しく切り取る、監督の個人的フェティシズムの偏りが、アメリカ人にとって、この“負の国民的文学”を個人的な物語へと昇華させ、「オーストラリア」以外の監督作品に連なり、視覚的快楽の極北が味わえる。個人的にはイーストエッグ/ウェストエッグ上空から鳥瞰を見せ、カメラが急降下するような描写に期待したが、当該描写はないなりにも、カメラワークは3Dでも公開されただけのことはあり、立体的で無茶な移動が駆使されてたので、全然満足。Lawless [DVD] [Import]プロボジション 血の誓約 [DVD]ザ・ロード [DVD]ホワイト・ジャズ (文春文庫)アメリカン・タブロイド 上 (文春文庫)アメリカン・タブロイド 下 (文春文庫)アメリカン・デス・トリップ 上 (文春文庫 エ 4-13)アメリカン・デス・トリップ 下 (文春文庫 エ 4-14)ジェシー・ジェームズの暗殺 [DVD]ドーベルマン HDリマスター版 [DVD]トゥルー・ロマンス [DVD]罪深き誘惑のマンボ (角川文庫)裏切りのサーカス コレクターズ・エディション [DVD]ハングオーバー!!! 最後の反省会 [DVD]ハングオーバー! [DVD] [DVD] (2011) ブラッドリー・クーパー; エド・ヘルムズ; ザック・ガリフィアナキス; ヘザー・グラハムハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える [DVD]華麗なるギャツビー 3D&2Dブルーレイセット(初回限定生産) [Blu-ray]華麗なるギャツビー [DVD]華麗なるギャツビー (角川文庫)アンタッチャブル(通常版) [DVD]IVCベストセレクション 暗黒街の顔役 [DVD]スカーフェイス [DVD]ダンシング・ヒーロー [DVD]ロミオ&ジュリエット [DVD]ムーラン・ルージュ [DVD]