娯楽映画に健常者は不要だね。

 一観客として、「アイアン・フィスト」へ。オープニングの漢字表記で本気アピールかつ、心ある香港映画ファンを完全掌握。さらにカン・リー等による怒濤の残酷殺人技の数々は、「ミラクル・カンフー阿修羅」や、「力王」の正統後継作品であることを自己申告しながら、異議を唱える者を皆殺しにする完成度を見せた。どうも監督とは、「アメリカン・ギャングスター」での共演が大きいようだが、ラッセル・クロウの投入は結果的に「クイック&デッド」繋がりにおいて、奴隷という点だけでなく、マカロニ的世界観においても「ジャンゴ」との紐帯をより強化することに貢献している。このカンフー映画以外の裾野の広がりは、共同脚本のイーライ・ロスのセンスと思われ、あるとないとでは深みが断然違うし、世界観が没シナリオ版「キル・ビル」や、さらに元ネタの「からぁ怒」や「レイザー」なんかにも通じてて微笑ましい。序盤のチェン・カンタイ、中盤のリュー・チャーフィーへの本気度の高いリスペクトの気迫に、意表を突かれ失礼ながら笑ってしまった。さらに終盤「燃えよドラゴン」オマージュで王道に帰る殊勝さに、本物の求道者の視点を見た。しかもリック・ユーンが善人役というのも驚きなら、全体に非情なキャラの騙し合いの先入観に反し、男も女も案外情に訴えるキャラ続出なのが意外で、最も素晴らしかったと言える。この悪趣味でも人間の基本的な情に訴えかける面白さは「レイン・オブ・アサシン」を思い出した。またそれは、「グランド・マスター」のような静のカンフーとは対極の滋味に満ち溢れている。しかし女優の演技力でうまいこと騙されているのか、パム・グリアの老け具合はやや衝撃だった。また、「ダーク・エンジェル」の“サン刑事”ことバイロン・マン(シルバーライオン)はルイ・オザワ・チャンチェンと交換可能な感じがして笑える。個人的にはもっとジェイミー・チャンの出番が欲しかったが、今年のベストテン入りは確実。


 一観客として、「ワールド・ウォーZ」へ。劇中「ゼット」じゃなくて「ズィー」なのに、邦題は「ズィー」だとずっと思ってたら「ゼット」だった。それって「D」を「デー」と読ませるセンスだよね。そんな勘違いなセンスがゾンビ映画そのものにも発揮されてしまってるので、ある意味邦題の方が適してるかも知れない。金を掛けてるからといって、本来マニアにアプローチすべきものを削ぎ落とした結果、酷く歪な作品となってしまっている。またも走るゾンビに、食人描写も人体損壊も見せないのは、本番のないAVみたいで極めて食い足りない。当然、原作とは別物で、単に感染した途端に歯並びが悪くなる病原菌パニックにも見える。だったら俺もゾンビってことになってしまうはずだが、蟻のように数だけで重量感がないゾンビは、明言こそしないが障害者を避ける特性を持っており、その偏食振りは他人事には思えない。しかし、「アイアンマン3」や「ローン・レンジャー」と、立て続けに大作に起用されるジェームズ・バッジ・デールが使い潰されてる上、続編があれば活かされるはずのデヴィッド・モースの配置も無駄に終わるだろう。なぜならこんな状況下に、仕事/家庭のような、「あれもこれも」的価値観で無理を通し、「あれかこれか」でなければ生き残れない世界の終末を見せないのだから。ただし、入植地の分断壁と国民皆兵という、イスラエル本来の侵略的パレスチナ対策がゾンビに応用される皮肉も描かれ、特に丸坊主の女兵士(しかも片腕!)の目覚しい活躍は、身体欠損女フェチには必見ではある。さらに朝鮮半島を絡めるなど、分断された特殊国家のイメージが強調され、政治的(要するにロメロ的)メタファーをゾンビ映画に込めようと苦心しているが、こちらも皮肉ながら、「下手な歌は自分らの首を絞める」とか、劇中からも「携帯の電源を切れ!」という、日常に向けたメッセージの方がはるかに効いてたのであった。


 一観客として、「パシフィック・リム」へ。説明もそこそこに、本題に入るのが早く無駄がない。但し、各イェーガーのキャラ立ちに対し、怪獣がさほどでなく、デザインの違いが暗さや雨、海底で判別に時間がかかるも、日本人には入りやすい設定から、想像力で埋める楽しみもある。さらにパイロット以外も、被災者、博士たち、「ヘルボーイ」こと闇商人ハンニバル・チャウ(「チャイナタウン」ネタに爆笑!)などと、20年以上に渡る怪獣との戦いに見合った多様な顔触れのそれぞれの葛藤まで踏み込む繊細なさじ加減が絶妙すぎる。そもそもこうした映像を作り上げられたことが多人数の協力による成果だし、日本兵の出る戦争映画同様、まさに海外の映画産業の資金・技術力で、日本が作れない代わりに作ってもらったというに相応しい、贅沢な文化の返礼だ。しかも、作中で言及される、理解されたい/理解されない煩悶を、デル・トロは映画作りで克服してるわけで(これこそ世界中へのドリフト!)そうした細かい配慮が、「怪獣とドリフトする」発想に結実したのもあっぱれ。もちろんこれはエンドロール中盤のネタとともに、続編への伏線だろうし(RZAさんも!)、本作だけでも筋運びにいかに瑕疵がないかも、「ジャンゴ 繋がれざる者」と違い、二回観たらハッキリすると断言しよう。さらに劇中は動きや明暗で判別しづらいディテールも紹介するエンドロールで、よくやくざ映画を観た男は肩で風を切るというが、主にキャメロンが更新してきた、10年単位で現れる、哲学なき娯楽映画のマスターピースとして、「ロボコップ」以来に、上映終了後に自身の歩きを意識したね。また個人的に菊地凛子は、かつて素の肉感的な顔が好みで「ちゅらさん」の後輩ナースで注目してたわけだが、久しく見放してた恋慕が再燃するほど素晴らしい。しかし、燃えるというなら映画史的には、人類が想像しえる“力”の源泉が未来も依然、原子力にしか見出せてないジレンマを的確に捉えてる方が重要だったりもする。Man With the Iron Fists [DVD] [Import]Tian can di que [VHS] [Import]RIKI?OH/力王 デジタル・リマスター [DVD]アメリカン・ギャングスター [DVD]クイック&デッド Hi-Bit Edition [DVD]Django Unchained [Blu-ray] [Import]キル・ビル Vol.1 [DVD]キル・ビル Vol.2 [DVD]からぁ怒 (キングシリーズ)レイザー 1(ミスター・ハンゾー篇) (キングシリーズ 漫画スーパーワイド)レイザー 2巻 (キングシリーズ 漫画スーパーワイド)レイザー 3巻 (キングシリーズ 漫画スーパーワイド)ディレクターズ・カット 燃えよドラゴン 特別版 [DVD]レイン・オブ・アサシン [DVD]グランド・マスター [DVD]ダーク・エンジェル シーズン1 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]ダーク・エンジェル シーズン2 (SEASONSコンパクト・ボックス) [DVD]ワールド・ウォーZ [DVD]28日後...(特別編) [DVD]ドーン・オブ・ザ・デッド ディレクターズ・カット [DVD]アイアンマン3 DVD(デジタルコピー付き)ローン・レンジャー MovieNEX [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー(クラウド対応)+MovieNEXワールド] [Blu-ray]パシフィック・リム [DVD]ヘルボーイ デラックス・コレクターズ・エディション [DVD]ヘルボーイ ゴールデン・アーミー [DVD]チャイナタウン 製作25周年記念版 [DVD]ロボコップ (特別編) [DVD]ちゅらさん 完全版 DVD-BOXちゅらさん2 DVD-BOXちゅらさん3 DVD-BOXちゅらさん 4 [DVD]