進んで騙される罪なきイベント。

 ファントム・フィルムさんのご招待で、「君が生きた証」試写へ。ウィリアム・H・メイシー初監督作は、意外なことに音楽に溢れ、瑞々しくも骨太な人間ドラマだった。主役の“Dr.マンハッタン”ことビリー・クラダップは、無差別乱射で息子を失い人生のバランスを喪失、文字通り舵を失ったかに放置した船上で隠棲している。たまたま弾き語りライブハウスに飛び入り出演し、ネタとして息子が遺した曲を演奏する羽目になったことから、とんとん拍子のバンド結成によりその実像に向き合わされることになるのだ。まさに原題でもあるバンド名のままに「ラダーレス(舵のない)」な絶望を生きる主人公は、やはり「ウォッチメン」における“ロールシャッハ”が同じ単語を使い述懐した“この最低の世界”を生き、遭遇した悲惨な真相をも暗示する符合は興味深い。もちろん俺は、「エレファント」や、「少年は残酷な弓を射る」といったスクールシューティング(或いはスプリーキリング)にまつわる物語として、また「フィッシャー・キング」など、暴力や犯罪に巻き込まれてもなお人生を否応なく続けざるを得ないというシリアスな問題を扱う点に深みを感じた。だがクラダップを始め、相棒となるメンバー、アントン・イェルチンの本人歌唱もあることで、本作は「はじまりのうた」や、近作「ブルックリンの恋人たち」に連なり、流行の俳優自身による本人歌唱ものとしての側面が魅力的な小品でもあった。また、メイシー本人の軽妙なライブハウス店主や、メイシー夫人フェリシティ・ハフマンローレンス・フィッシュバーン、セレーナ・ゴメス、そして個人的にはかなり嬉しいジェイミー・チャンの出演など、贅沢かつサプライズに溢れたキャスティングが、メイシーの(普段の役柄とは真逆の)人徳を感じさせて楽しめる。



 一観客として「ホビット 決戦のゆくえ」へ。杉作局長から大団円と直接お聞きしたので、終了しないうち何とか行きたいと思い、ようやく間に合わせることができた。やはり「ロード・オブ・ザ・リング」一作目から見て来た観客には何だかんだ言っても出発点への回帰はご褒美だろうし、原作ファンならもっと様々な発見もあるんだろうが、単にピーター・ジャクソンの長すぎる旅の終焉として感無量となり、その間に起きた自身の艱難辛苦を思い浮かべると涙ぐまないわけには行かない。個人的にはそんな落とし前としての意味合いもあったのだ。また、三部作の出だしやスマウグのような分かりやすい敵キャラからすると、本来は正編より比較的子供向けの設定だったのだろうが、追補編や設定資料リサーチによるディテールの強化によって、後半は“フロドの物語”に勝るとも劣らない、殺気が漲る地獄の戦場を描き出していて、加えて前作ではやや欠乏気味に感じられた、トロール等の汚い低能描写も見事に復活し、かなり満足。また今回のシリーズではさほどの活躍を見せなかったサルマン、エルロンド、ガラドリエルもここぞとばかりに本領を発揮し、引き続きタウリエルと、特にレゴラスは物理法則を無視したあり得ないビッグアクションを見せるので笑ってしまった。また因縁のオークとの決着や、“サムの自己犠牲”に匹敵する、ドワーフたちとの友情物語として完結するのは、苦くも清々しい後味を残す。そして、苦手なファンタジーに最後まで付き合ったからこそ、次回はこの世界観の呪縛から脱出した新作をものして欲しい期待で満たされたのである。



 一観客として「ベイマックス」へ。マーベル作品の映画化でありながら戦隊ものでもあって、なおかつディズニーアニメでもある。もちろんマーベルの影響下にある戦隊ものとして、我々は既に「バトルフィーバーJ」を経験してるわけだが、本作はそこに往年のタツノコアニメ風味が加わり、どちらかというとDC寄りだった「Mr.インクレディブル」とはまた違う、マーベルらしい荒唐無稽で比較的明朗なヒーローものに仕上がっている。紛れもないマーベル映画の証拠に、エンドロール後に現れる衝撃のカメオから今後の広がりを期待してしまうのも必至。また、技術的にも髪の毛や、丸めた紙、そして水の描写など、不定形なものへの不断の挑戦と技術的進歩が見て取れ、キャラのデフォルメ以外にアニメでやる必然性を感じなかったほどだ。技術と作品の方向性を見る限りでは、むしろこうした作品は日本で作られるべきだったと評する向きもあるだろうが、無国籍感の強調された町並みの特殊性などは、かつて日本が海外に輸出したアニメの種が海外でより混沌かつ過剰な装飾が施され結実したハイブリッドの証なので、やはり日本で作るのは無理だし、まして文化の出涸らししかないこの国の現状では絶対に不可能と言わねばならない。それだけに余計、日本の観客からの先入観的な嫉妬の予防か、完全なヒーローバトル(しかも肉親の復讐)を描いた本作へ、恰かも癒し系の腑抜けた感動作かのように意図的なミスリードを促す、見当違いの広告戦略を日本限定で展開せざるを得なかった理由がありそうだ。個人的には主人公を養育する叔母さんの生活感あるエロさに欲情しつつ、さらに欲を言えば“ゴー・ゴー”を演じるジェイミー・チャンの声も堪能したかったが、日本語が公用語という設定なので、吹き替え版の上映回数の多さが、今回ばかりは絶妙な配慮に思えた。WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (ShoPro Books)ウォッチメン スペシャル・エディション [DVD]ビフォア・ウォッチメン:コメディアン/ロールシャッハ (DC COMICS)ビフォア・ウォッチメン:ナイトオウル/Dr.マンハッタン (DC COMICS)エレファント デラックス版 [DVD]少年は残酷な弓を射る [DVD]フィッシャー・キング [DVD]BEGIN AGAINロード・オブ・ザ・リング [DVD]ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔 [DVD]ロード・オブ・ザ・リング / 王の帰還 スペシャル・プライス版 [DVD]ホビット 思いがけない冒険 [DVD]ホビット 竜に奪われた王国 [DVD]ホビット 決戦のゆくえ DVD(1枚組)バトルフィーバーJ Vol.1 [DVD]バトルフィーバーJ Vol.2 [DVD]バトルフィーバーJ Vol.3 [DVD]バトルフィーバーJ Vol.4 [DVD]バトルフィーバーJ Vol.5 [DVD]アベンジャーズ [DVD]科学忍者隊ガッチャマン ブルーレイBOX<15枚組> [Blu-ray]科学忍者隊ガッチャマンII DVD-BOX1<通常盤>科学忍者隊ガッチャマン2 DVD-BOX2 <通常版>科学忍者隊ガッチャマンF COMPLETE DVD-BOX