騙し騙されるのもまた娯楽。

　ワーナー・ブラザースさんのご招待で「フォーカス」試写へ。本作がコン・ゲームものだという予備知識はあったが、「アメリカン・ハッスル」のような実話ベースでない分、充分な遊びを見せてくれる。しかも作戦に加わる仲間の数が多いヤマであるため、動機に復讐等はないが「スティング」を想起したが、犯罪形式は違っても、底を流れる男女の騙し合いにおいてポール・ニューマンではなくそのライバル、スティーブ・マックイーンの「華麗なる賭け」へのオマージュであることが終盤になるにつれ分かる。しかもその逆転とテクニックに、主役ウィル・スミスの思い上がりで大失敗した、「アイ・アム・レジェンド」や「ハンコック」のようなオレ様節や、以降の息子をごり押ししたがるモンスターペアレントぶりは抑制されている。なぜなら物語的に厳密な協調性をもって多人数ミッションの遂行に勤しむピンのスミスが拝めるからで、スミス自身がチームの和を乱す最大の不安要素として投入される、「Suicide Squad」も、案外“デッドショット”でも大丈夫かも？って気にさせられ、多少の安心を得られる痛快作である。また、「スリー・キングス」に匹敵する応急処置技術の開陳もそれ自体ハッタリにも見えて、騙される覚悟を持った観客には頼もしい捻りが加えられてるのもポイント。同じく「Suicide〜」組で“ハーレイ・クイン”が心配なマーゴット・ロビーのポテンシャル確認にももってこいなのであった。少なくとも、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」より人形じゃなく描かれてるから確認もし易い。さらに個人的にはニューオーリンズで流れる、いかにもなご当地ソングといい、サントラにおける選曲の良さが光った。

　一観客として「ジュピター」へ。荒唐無稽なスペースオペラでも原作がある「ジョン・カーター」や、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」ならまだしも、予告の時点でSFとして大幅な後退をしてるな…との見なしは完全に当たってしまった。やはり「マトリックス」で革命を成し遂げ、支配層に自らが回ってしまい「〜リローデッド」以降はそのジレンマへの決着に逡巡していたように、結果として同じ轍を踏んでしまった。これで、「クラウド・アトラス」が素晴らしかったのも、トム・ティクヴァのお蔭だと分かってしまい、ペ・ドゥナには気の毒である。だからスペースオペラと危惧した時点で薄々分かっていたように、視覚的にもSFのガジェット面でも目新しさはなく、物語的にも「マトリックス」パスティーシュだった「ウォンテッド」を逆に再取り込みしたかのような、「小公女」ばりに実はヒロインが王女だったという新味のないものなのだった。しかも敵側の支配層が、実は人間を資源として搾取するため地球に放牧しているという思想が「〜アトラス」のネオ・ソウル編にまで使い古された、「マトリックス」の基本設定の転用であり、どんでん返し的なものは一切ない。そのタイプキャストからすればやっぱり裏切るショーン・ビーンはギャグのような気もするが、やっぱり意外性なくマッチョなチャニング・テイタムにサポートされるヒロイン像を見る限り、今回は作品そのものが性転換した姉（旧名ラリー）の「女らしさ」にこだわった妄想であり、その映画のような見せかけに釣られ、単に我々は付き合わされただけなのかもしれない。

　一観客として「バードマン あるいは（無知がもたらす予期せぬ奇跡）」へ。もちろんそこに本題がないのは分かるが、ヒーローものは設定こそ肝なのに、劇中頻出する“バードマン”という往年のヒーローがどういうキャラクターだったのか、何の説明もないのは、その存在が作品全体に影を落としているだけに、非常に残念だ。その詳細が明かされてこそ、現実と意識と妄想がワンカットに見せかけるよう計算されたカメラワークによって同一地平上に展開するギミックも、より意味深かつ哲学的に見えただろう。しかし合成以外は長回しに見せかけるテクニックも意外と「ロープ」あたりのオーソドックスな繋ぎの連続で、イニャリトゥとも近いキュアロンの「トゥモロー・ワールド」のように撮影自体のセンス・オブ・ワンダーを感じさせるほどトリッキーな場面はない。銃を使った一連のシークエンスが「ファイト・クラブ」のオマージュとも見受けられるからこそ、加えてハルク経験者としてのキャリアも合わせたエドワード・ノートンの起用に至ったのは分かるが、狂ったキャラとして期待しすぎてしまった。ならばマッチョ主義の戯画として、彼のブリーフ内部での勃起が弱いのは残念だし、「御用牙」における勝新太郎の方がもっと詰め物してたと思う。脇で「オブリビオン」に連なるエロスを発散し続けるアンドレア・ライズボローが気になってさほど入り込めなかったが、終始体温の低いジャンキー演技だったエマ・ストーンの笑顔が最後に見られたことには感謝したい。