争いこそが世界なのだよ。

　一観客として「アンダーワールド 覚醒」へ。こちらも3Dを意識して急遽制作された作品だが、作品の存在自体が露骨に蛇足だった「バイオハザードIV」より、3Dの導入が丁寧で、飛び出させたい部分の描写もこれ見よがしでウザくない。つまり、レン・ワイズマンが「トータル・リコール」監督の合間に物語をコントロールしている（監督ではない）ので、もっと物語に没入できる安定した展開なのだ。ただし、セリーンが最後に登場した「アンダーワールド2」の直接の続きとなっており、ブランクがあるため、過去を振り返りながら単純化。舞台も未来へと移し、「デイブレイカー」的要素も加味した狭いシチュエーションでアクションと暴力と残酷の濃度を上昇させている。依然敵として登場するライカンおよび生き残りのヴァンパイアはキャラ立ちが弱いが、よりローナ・ミトラ化してきているケイト・ベッキンセイルの骨格美、その娘の可憐さ、ウェス・ベントレー、サンドリーヌ・ホルト、スティーヴン・レイ、チャールズ・ダンスといった豪華なジャンル系役者のアンサンブルも、その無駄使いが楽しいし、この程度のボリュームでこの濃度ならまだまた続いても心配ないという品質を維持していたのだった。

　一観客として「シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム」へ。ホームズの変人ぶり、そのワトソンに対するツンデレぶりが彼の結婚によって加速していい感じ、と思ったら、いきなり誰もが知ってるあのクライマックスに行ってしまうとは驚いた！とはいえ、第一次大戦の遠因を誘発しているという物語の骨格もかなりスケールがデカいし、続編としてはモリアーティ教授の顔見せと共に申し分なしのカタルシス。なので個人的には同時期に上映している第一次大戦そのものを扱った「戦火の馬」とのカップリング鑑賞が非常にコントラストが効いていて相性がヨロシイのではないだろうか。それはヨーロッパにおける多言語表現の処理方法においても好対照である上、印象的な登場の仕方をするモーゼル・ミリタリーの扱い方においてもそれは共通しているからなのだ。初代「ドラゴン・タトゥーの女」としてのイメージがあるせいで、実はかなり横溢するフェミニンさを紛らされているノオミ・ラパスの生来の持ち味が、今回小出しでも味わえることに大きな喜びを覚え、本作の続編はもとより、「プロメテウス」への期待が否が応にも高まったのだ。

　一観客として「戦火の馬」へ。単純に手塩にかけた馬を、よりによって“ロキ”に託すのは育ての親の少年もかなり心許ないと思うが、レイティングが低めに設定されている緩めの話だからといって、託された馬が軍馬として使役されるのが第一次大戦なのだから気が抜けない。実際そう踏んで鑑賞すれば、流血は些細ながらも、「プライベート・ライアン」を髣髴とさせるトーチカ戦やタンクの登場（当然『ザ・パシフィック』的でもある）、「突撃」を意識した塹壕における驚愕のネズミ描写、さらには画面奥で吹き飛ぶ複数の人体と、かなりの行き届いた配慮。さらには食傷気味ながら満を持したモーゼル・ミリタリーの強調など、線ではなく点としての映画として秀逸である。しかしながら馬上でのサーベル突撃や銃剣の多様、有刺鉄線など、馬のつぶらで巨大な瞳と交互に映すには凶悪すぎる尖端描写が繰り返されるので、この手の恐怖症には要注意を促したい。また、当然ながら、アメリカ人は一切出てこないだけに、戦争の背景を悟らせるためにも、言語は分けた方がいいね。これじゃフランス人少女のくだりが台無しだ。だが、最後のフィリップ・ナオン登場で得した気分になってしまったのも事実。

　一観客として「おとなのけんか」へ。ポランスキーのタイトでライトなコメディ。CG使ってまでゲロ噴出させているんだから、これは立派な怪獣映画だし、“大人”なんて、その振りをしている奴がいるばかりで、本当はそんなものどこにもいないっていう、誰も認めない当たり前のことを執拗にイジる悪意ある傑作。